業界トピックス
生成AIによる法務部業務への影響
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1.2024年は生成AI議論から始まった
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2.問題は大きく2点
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3.著作権が主戦場ではない
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4.法務部員にしかできない仕事
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記事提供ライター
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1.2024年は生成AI議論から始まった
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2024年1月23日、文化庁が「AI と著作権に関する考え方について(素案)」に関するパブリックコメントの募集を開始(https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/93997301.html)し、2月29日には、「AIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年2月29日時点版」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/)を公開しています。
2月16日には、日本弁護士連合会が、文化庁に対して、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に対する意見書」(https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2024/240216.html)を提出しました。
筆者は、以前、「AIの発展による弁護士業務への影響」(https://www.bengoshitenshoku.jp/column/234)というコラムを書いたのですが、ここにおいてはAI技術一般について取り上げており、生成AIについての言及もしたものの中心的に取り上げることはしませんでした。主として想定していたのはAIによる契約書添削だったからです。また、弁護士業務においては正確な法令知識と信頼できる証拠に基づいて判断することが求められ、守秘義務も負うため、AIの仕組みがわかれば、弁護士業務において生成AIを使うという発想はナンセンスだという筆者の考えもありました。
しかし、2024年に入ってからの議論は、生成AIを中心としたものです。クリエイターも一般人も生成AIを利用し始めており、生成AIが企業活動に及ぼす影響は確かにあり、それは法務部の業務にも影響を与えます。そこで、このコラムでは、生成AIが、法務部の業務にどのような影響を及ぼすのかを考えます。
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2.問題は大きく2点
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筆者は、生成AIによる問題点は大きく2つ、過学習による特定の著作者や表現者の模倣と、著作権が生じない生成物の取り扱い、であると考えています。前述した日本弁護士連合会による意見書(https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2024/240216.html)も、筆者と同じか、少なくとも似た考えによるものと思われます。
過学習というのは、学習データへの適応ばかりが進んでしまい、未知のデータへの対応力あるいは汎用性が損なわれてしまった状態です。現実において生じる具体的な問題を考えると、特定の有名人のデータを意図して過学習させれば、その有名人のフェイク動画を作ることができてしまいます。
生成AIが生成した生成物には原則として著作権は生じないと考えられています。原則として、というのは、AIへの指示において創作性が認められ、その指示を受ければAIは必ずその生成物または類似のものを生み出すという状況が仮にあるならば、例外的に生成物に著作権が生じると筆者は考えているからです。現実においては、AIに生成させたCG画集が販売された場合、AIに指示を出した者に保護は与えられるべきか否か、あるいは著作権があると偽った場合に罰則を与えるべきか、という問題が生じます。
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3.著作権が主戦場ではない
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文化庁による素案は、あくまでも文化庁が所轄する著作権についての議論に限定されたものであることに注意が必要です。
生成AIを用いた有名人のフェイク動画が拡散された場合、真っ先に学習データに関する著作権法違反を論じる者はいないでしょう。先ず問題とするべきは当該有名人の名誉権や肖像権であり、虚偽情報が流布されることによる社会への悪影響です。
生成AIによるCG画集について販売者が著作権を主張したことを罰するという問題意識は理解できますが、むしろ、生成AIへの指示を通じて、消費者がお金を支払うだけの価値があると考える生成物が生み出された場合には、その収益は指示を出した者に帰属するべきか、AIの制作者に帰属するべきか、その両方かといった、経済的なルールを論じるべきであるように筆者には思えます。
AIに関する法的問題は著作権法の文脈で語られることが多いのですが、筆者は、主戦場は別のところにあると考えています。
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4.法務部員にしかできない仕事
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生成AI自体は便利な技術です。悪影響を抑えるべくルール整備は急務ですが、法的問題を生じさせうるから規制すべき、という議論は、乱暴に思えます。また、一旦広まった技術を規制することは事実上不可能です。
有名人のフェイク動画は問題ですが、意図的な過学習を使いこなせば、亡くなった名俳優の新作映画や、過去の歌姫の新曲を生み出すことができます。故人についての権利を有する者との間で然るべき権利処理を行った上で、生前の作品が掘り起こされたのではなくAIによる再現だということが誰にでもわかる態様で生成物を公開することは、好ましいことであると筆者は考えます。これを実現するのは法務部員の仕事です。
生成AIが生み出す作品をどのような形で商流に載せるべきか、コピー防止技術や透かし技術によって、著作権がないことを前提としながら、市場に混乱を起こすことなく商品化するためのアイデアを考え出すのも法務部員の仕事です。AIが生み出した作品に人の心を動かす力があるのなら、AIの開発者かAIに指示を出した者が報われるべきというのが、筆者の価値観です。
新しいビジネスを生み出すだけでなく、既存のビジネスに法的な問題を解決しながら生成AIを組み込んでいくことで生産性を高めるための仕組みづくりも法務部員の任務です。
生成AIは法務部員に大活躍のチャンスを与えてくれていると、筆者は考えています。
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記事提供ライター
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弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。
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