業界トピックス

企業法務における「予防法務」とは?必要な資格・能力・マインドセットや業界・立場による注意点などをわかりやすく解説

目次
  • 「予防法務」とは?基本の考え方と企業法務における重要性

  • 予防法務の具体的な役割と実務内容とは?

  • 業界ごとに異なる予防法務の特徴とは?

  • 発注側・受注側それぞれでの予防法務における注意点

  • 予防法務に資格は必要?求められる能力・マインドセットとは

  • C&Rリーガル・エージェンシー社が支援します――予防法務から始める、理想の法務キャリア

  • 企業法務の業務は多岐にわたりますが、その中でも「予防法務」は、トラブルを未然に防ぎ、事業の成長を支える重要な役割を担っています。
     
    予防法務とは、企業が法的トラブルを未然に防ぎ、また万一問題が発生しても速やかに対処できるよう、あらかじめ備えておく取り組みのことです。具体的には、契約書の作成や専門家による確認、社内規程の整備、コンプライアンス体制の構築などが含まれます。
     
    本記事では、予防法務の基本的な考え方から、具体的な業務内容、必要な資格やスキル、求められるマインドセット、業界ごとの特徴や注意点まで、法務初心者にもわかりやすく解説します。将来、企業法務や法律実務へのキャリアを考えている方は、ぜひ最後までお読みください。
     
    なお、企業法務全体の分類や構成を押さえておきたい方は、以下のまとめ記事もご参照ください。
    「企業法務の業務内容とは?5つの分類(予防・臨床・戦略・商事・コンプライアンス法務)を未経験者にもわかりやすく解説|転職前に知っておきたい基礎知識」

  • 「予防法務」とは?基本の考え方と企業法務における重要性

  • 「予防法務」とは、企業活動に伴う法的リスクを事前に察知し、問題が顕在化する前に対処することで、法的トラブルや損害の発生を未然に防ぐための取り組み全般を指します。訴訟などのトラブルが発生した後に対応する「臨床法務(事後対応)」と対比される概念であり、現代の企業活動においては必須の機能となっています。
     
    契約書の締結において、リスクの高い条項を精査・修正したり、曖昧な表現を明確にしたりすることは、典型的な予防法務の一環です。また、新規事業やサービス展開の際に、関連する法規制を調査・整理して、適法な枠組みを設計することも予防法務に含まれます。これにより、後から規制違反や顧客トラブルが発覚して損害賠償やブランド毀損につながるといったリスクを大幅に軽減することができます。
     
    重要なのは、予防法務が単なる「リスクを避けるための制限」ではないという点です。むしろ、法的な観点から経営や現場をサポートし、「安心して挑戦できる環境」を整備することが本質的な役割です。経営陣や事業部門と連携して「どうすればリスクを最小限にしつつ実現可能か」を検討し、実行可能な選択肢を提示することが、予防法務におけるプロフェッショナルの価値と言えるでしょう。
     
    このように、予防法務は企業のリスク管理体制の中核をなすのみならず、経営戦略の実行を支える重要な基盤です。ビジネスのスピードと複雑性が増す現代においては、法務の早期関与が不可欠となり、企業法務にはより一層、予防的視点が求められています。

  • 予防法務の具体的な役割と実務内容とは?

  • では、予防法務は会社においてどのような役割を果たすのでしょうか。具体的な実務内容とともに紹介します。

  • ■契約書レビューだけじゃない!法務の多様な実務

  • 予防法務の代表的な業務といえば、やはり契約書の作成・レビューです。たとえば、取引先との契約において、曖昧な文言があれば解釈の食い違いから紛争につながるリスクがあります。また、契約条件が一方的に不利なものとなっていないか、解約条項や損害賠償規定は適切か、といった観点から事前にリスクを洗い出し、調整しておくことが必要です。
     
    しかし実際の業務はそれだけではありません。予防法務は、契約以外にも以下のような広範な領域をカバーします。
     
    ・新規サービスの立ち上げ前における法的リスク調査と助言

    ・マーケティング資料や広告表現のリーガルチェック

    ・社内規程や就業規則の整備とアップデート

    ・個人情報保護体制の点検・運用支援

    ・M&Aや資本業務提携時のリスク評価と文書整備
     
    このように、各部門と密接に連携しながら、法的な視点で事業の安全性と実現可能性を担保していくことは、予防法務に求められる重要な使命のひとつです。

  • ■「NO」と言うだけじゃない、事業を進める法務の考え方

  • 予防法務に求められるスタンスは、単なるリスク回避ではありません。むしろ重要なのは、「事業を止めないための知恵を出すこと」です。
     
    たとえば、「法的に問題があるのでできません」と結論づけるのは簡単ですが、それでは事業部門との信頼関係は築けません。予防法務の役割は、「どうすれば法的に問題なく、かつビジネス上の目的を達成できるか」を模索することにあります。
     
    現場で求められるのは、法令や判例に関する知識だけではなく、業界動向や事業スキームの理解も含めた「現実的な落としどころ」を見つける力です。これは単なる法律相談ではなく、「法律を使って前に進むための調整役」としての機能だと言えるでしょう。

  • ■トラブルの芽を摘む、地道だが不可欠な働き

  • 法的トラブルの多くは突然起こるものではなく、小さな違和感や未整備のルール、曖昧な運用といった日々の業務の中に潜む「ほころび」が、徐々に大きな問題へと発展していくものです。予防法務の重要な役割は、その兆候にいち早く気づき、組織が深刻なリスクに巻き込まれる前に適切な手を打つことにあります。
     
    たとえば、次のような場面では、法務担当者が具体的なアクションを取って問題を未然に防ぎます。
     
    ・雇用条件の曖昧な表現を見直し、労働契約書の文言を明確化することで、後の解釈トラブルや残業代請求などの労使紛争を防ぐ。
     
    ・社内通報制度の形骸化に気づき、通報窓口の見直し・匿名性の確保・ハラスメント対策研修の導入を提案・実行する。
     
    ・口頭やメールでの不十分なやり取りが続いている商談に対し、合意事項をきちんと文書化し、覚書や契約書の締結を促すことで請求トラブルを回避する。
     
    ・新商品リリース前の法規制確認が曖昧だったため、景品表示法・医薬品医療機器等法などの該当条項を精査し、表示内容や販促方法の修正を提案する。
     
    これらはすべて、法律の専門知識と現場の理解力を組み合わせ、リスクを「予兆」の段階で処理する典型的な予防法務の働きです。特に、ルールがまだ固まりきっていない成長企業や、現場主導の意思決定が多い組織では、法務が積極的に現場に関わり、こうした「初期段階の不安要素」に目を光らせておくことが欠かせません。

  • 業界ごとに異なる予防法務の特徴とは?

  • 予防法務の基本的な役割は、企業が法的リスクを未然に防ぎ、円滑な事業運営を支援することです。しかし、業界や企業の規模、事業内容によって、予防法務の具体的な業務や重点の置き方には違いがあります。以下に、いくつかの業界における予防法務の特徴を紹介します。

  • ■IT・テクノロジー業界

  • IT業界では、急速な技術革新とサービスの多様化により、法的リスクも多岐にわたります。特に、個人情報保護法や著作権法、電気通信事業法など、関連する法令が多く、予防法務の担当者はこれらの法令に精通している必要があります。また、契約書の作成・レビューだけでなく、サービスの利用規約やプライバシーポリシーの整備、ユーザーからの問い合わせ対応なども重要な業務です。

  • ■製造業

  • 製造業では、製品の安全性や品質管理に関する法令遵守が求められます。製品事故やリコールのリスクを最小限に抑えるため、製造物責任法(PL法)や労働安全衛生法などに基づいた社内規程の整備や、取引先との契約書における責任分担の明確化が重要です。また、海外展開を行う企業では、各国の法令に対応した製品表示や輸出入手続きの確認も必要となります。

  • ■金融業界

  • 金融業界では、金融商品取引法や銀行法、保険業法など、専門性の高い法令に基づいた事業運営が求められます。予防法務の役割は、こうした法令に準拠した業務フローの整備や、契約書・約款の内容確認、営業資料のリーガルチェックなどを通じて、トラブルを未然に防ぐことです。
     
    新しい金融商品やサービスの導入時には、適用される規制の確認とリスク評価を行い、表現や提供スキームが適法かどうかを事前に精査することが重要です。法規制の厳しさに対応するため、金融業界の予防法務には、高度な法令知識と実務的な判断力が求められます。

  • ■小売・サービス業

  • 小売・サービス業では、消費者との直接的な接点が多いため、消費者契約法や景品表示法、特定商取引法などの法令遵守が求められます。予防法務の担当者は、広告や販促活動における法令違反の防止、クレーム対応のマニュアル整備、従業員教育の実施などを通じて、企業の信頼性を維持・向上させる役割を担います。

  • ■建設・不動産業界

  • 建設・不動産業界では、建築基準法や宅地建物取引業法、都市計画法など、多岐にわたる法令への対応が必要です。予防法務の担当者は、契約書の作成・チェックだけでなく、許認可手続きの確認、土地・建物に関する権利関係の調査、近隣住民とのトラブル防止策の検討など、幅広い業務を行います。

  • 発注側・受注側それぞれでの予防法務における注意点

  • 予防法務は、企業の立場によってアプローチや重点の置き方が異なります。とりわけ、「発注側」と「受注側」では、契約関係や法的リスクへの備え方に明確な違いが生じます。それぞれの立場における予防法務の留意点を整理しておきましょう。

  • ■発注側の注意点

  • 発注側は、業務やサービスを外部に委託する立場にあります。したがって、契約においては「いかに自社にとって不利な条件を排除し、リスクを限定するか」がポイントになります。
     
    具体的には、以下のような観点での注意が必要です。
     
    ・成果物の定義を明確にすること:業務の内容や納品物の仕様、納期、検収方法などを曖昧にしてしまうと、納品後のトラブルや責任の押し付け合いに発展しかねません。
     
    ・損害賠償条項・免責規定のバランス確認:過度な免責や損害賠償の上限設定があると、相手方の重大な過失に対しても責任を問えなくなるリスクがあります。
     
    ・秘密保持や再委託に関する条項の精査:業務委託の過程で機密情報が共有される場合、その管理方法や再委託の制限などを明記しておく必要があります。
     
    ・法令遵守やコンプライアンスの確認:受託側が法令違反を起こした場合、発注者側が連帯責任を問われるケースもあるため、事前の確認と契約上の担保が欠かせません。
     
    発注側の予防法務は、「契約に期待する内容を適切に表現し、実効性のあるリスクコントロールを行う」という意識が鍵になります。

  • ■受注側の注意点

  • 一方、受注側は、発注者からの要求を実現する義務を負う立場です。したがって、契約に含まれる内容が過度に広範であったり、リスクの分担が一方的であったりすると、大きな法的負担や損害に直結する可能性があります。
     
    受注側における具体的な予防法務の留意点は以下の通りです。
     
    ・対応可能な範囲・責任の明示:業務の範囲を明確に定義し、曖昧な成果目標や「善管注意義務」のような広範な義務を一方的に負わされないように注意が必要です。
     
    ・成果物の使用範囲や知的財産権の取り決め:納品物に関する著作権や再利用の可否などが契約書でどう規定されているかを確認し、自社の権利が不当に制限されないようにします。
     
    ・支払条件・検収方法の明文化:支払い時期や検収の基準・方法が曖昧な場合、納品後にトラブルとなりやすいため、明確な定義と合意が重要です。
     
    ・リスクの分担と対応フローの合意:納期遅延や不可抗力が発生した場合の対応、責任分担の範囲を契約段階で取り決めておくことも予防法務の重要な役割です。
     
    受注側では、「守りつつ、期待に応える」というバランス感覚が求められます。予防法務の視点をもって契約を読み解くことで、不要なリスクを回避し、持続可能な取引関係を築くことが可能になります。

  • 予防法務に資格は必要?求められる能力・マインドセットとは

  • 企業の法務職に就くためには、弁護士資格が必要だと思われがちですが、実際には「予防法務」に携わるうえで特定の資格は必須ではありません。むしろ、現場で求められるのは、法律知識をビジネスの中でどう活かすかという実践力です。
     
    ここでは、予防法務に就く際の資格要件、そして日々の業務で役立つスキルやマインドセットについて解説します。

  • ■資格は不要!誰でもチャレンジできる理由

  • 予防法務の実務において、弁護士や司法書士などの国家資格は原則不要です。実際、多くの企業では、法学部出身者や他職種からのキャリアチェンジで法務に携わる方も多数います。
    「契約書を読めるか」「社内ルールを理解できるか」といった実務的な視点が重視されており、未経験でも学びながら対応できる業務が多く存在します。
     
    もちろん、企業によっては一定の法務経験を求める場合もありますが、「資格がないから応募できない」ということは基本的にありません。
     
    ただし、一部の大手企業や外資系企業では、法務業務の分業化が進んでおり、案件の規模に応じて弁護士が対応する社内ルールが定められているケースもあります。大手企業などでは、契約金額が大きくなると、弁護士などの有資格者が必ずレビューを行うといった社内ルールを設けていることも珍しくありません。
     
    このように、企業ごとにルールや体制が異なるため、志望先の法務部の運用を事前にリサーチしておくことをおすすめします。

  • ■実務で活きるスキルとマインドセットとは?

  • 予防法務では、書類を見る力と同じくらい、人と関わる力が重要になります。法務部門は、他部署の業務を法的にサポートする立場であるため、コミュニケーション能力や信頼関係の構築力が必須です。
     
    特に求められるスキル・マインドセットは以下の通りです。
     
    ・相手に合わせた説明力
    法律的な説明を、専門外の部門にもわかりやすく伝える力。抽象的な表現ではなく、具体的に説明できるかどうかが問われます。
     
    ・他部門との良好な関係構築
    営業、開発、広報などとの日常的な連携が不可欠。信頼される法務担当であるためには、寄り添う姿勢や対応の柔軟さも大切です。
     
    ・社外との折衝力・調整力
    顧問弁護士や取引先との契約交渉、法務デューデリジェンスなど、社外対応の場面も多くあります。話し合いの場で冷静に、かつ丁寧に対応する姿勢が求められます。
     
    ・継続的な学習意欲
    法令は常に変化しています。新たなルールや判例へのキャッチアップは、現場での実務に直結する重要な取り組みです。
     
    こうした力は、一朝一夕では身につきませんが、現場での経験を重ねる中で少しずつ育まれていくものです。未経験でも「人と関わる力」を大切にできる方こそ、予防法務の現場で大きな力を発揮できるでしょう。

  • C&Rリーガル・エージェンシー社が支援します――予防法務から始める、理想の法務キャリア

  • 企業活動のなかで、リスクを「起こってから」対処するのではなく、「起こる前」に防ぐ。そんな視点で事業を支える予防法務は、これからの企業法務においてますます重要性を増しています。契約書のチェックや社内規程の整備だけでなく、他部門と連携しながらリスクの兆候を察知し、具体的な対策を講じていくこの仕事は、実務に密着した「生きた法務経験」を積める貴重なフィールドです。
     
    C&Rリーガル・エージェンシー社では、こうした予防法務に取り組みたい方、またその分野でスキルを磨きたい方に向けて、専門的なキャリア支援を行っています。
     
    当社は、法務領域に特化した転職支援サービスを提供しています。予防法務を担うポジションについても、法務未経験の方がチャレンジしやすい案件から、より戦略的な法務部門で活躍できる求人まで、多数取り扱っています。
     
    私たちの強みは、業界に精通した専任エージェントが、一人ひとりの志向や経験に合わせて求人をご提案し、応募書類のアドバイスから面接対策、条件交渉、入社後のキャリア相談に至るまで一貫してサポートできることです。
     
    企業によっては、予防法務を重視する文化が根づいていたり、契約対応や社内調整を中心とした職務内容であったりと、業務の実態には差があります。当社では、そうした「求人票ではわからない現場のリアルな情報」も含めてご紹介し、安心してキャリア選択ができるようお手伝いしています。
     
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