業界トピックス
〈前編〉企業法務の「戦略法務」とは?~具体的役割や実務詳細を解説~
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戦略法務とは?企業法務との違いや定義をやさしく解説
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戦略法務の仕事内容とは?M&A・新規事業など具体例で紹介
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戦略法務を目指すならC&Rリーガル・エージェンシー社へ
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企業の経営戦略に深く関与し、法務の立場からビジネスを前進させる。それが「戦略法務」の役割です。従来の法務が“守り”に徹していたのに対し、戦略法務は“攻め”の法務とも呼ばれ、近年注目を集めています。
とはいえ、「戦略法務って結局なにをするの?」「法律の専門知識以外にどんなスキルが必要?」「資格がないと目指せないの?」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事〈前半〉では、法務を目指す方やキャリアアップを考えている方に向けて、
・戦略法務の定義や業務内容
・実際にどんな場面で活躍するのか
・必要なスキルや資格
・向いている人の特徴ややりがい
といった内容をわかりやすく解説します。
法務のキャリアに関心がある方にとって、戦略法務は視野を広げ、専門性を活かしながらビジネスの中核に関わることができる魅力的な選択肢です。
この機会に、「戦略法務」というキャリアを具体的に描いてみませんか?
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戦略法務とは?企業法務との違いや定義をやさしく解説
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「戦略法務」という言葉を聞いたことはあっても、その具体的な役割や、従来の企業法務との違いが今ひとつわからないという方も多いのではないでしょうか。
ここではまず、戦略法務とは何か、そしてこれまでの“守り”の法務との違いについて、わかりやすく解説していきます。
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■そもそも戦略法務とは何か?
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戦略法務とは、企業の経営戦略を法的な側面から支え、より良い結果を生み出すための法務活動です。
たとえば、新規事業の立ち上げ、海外進出、M&A(企業の合併・買収)など、企業の成長局面において法的リスクを見極め、適切なスキームや契約構造を設計することが戦略法務の代表的な役割です。
また、経営判断のプロセスに早期から関与し、法的な観点から意思決定を支援することも戦略法務の重要な機能の一つです。リスクを単に回避するのではなく、リスクを踏まえたうえで、どうすれば企業にとって最大の利益や成長につながるかを提案することが求められます。
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■従来型の法務(守りの法務)との違い
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これまで、企業法務は主に“守り”の役割を担ってきました。
契約書のチェックや社内規程の整備を通じてリスクを未然に防ぎ、トラブルが起きた際には速やかに対応する。そうした活動が、企業法務の基本とされてきたのです。
この「守りの法務」は、さらに次のように分類されます。
・予防法務:トラブルを防ぐための事前対応(例:契約書のリーガルチェック)
・臨床法務:発生したトラブルへの対応(例:訴訟・クレーム対応)
・コンプライアンス法務:法令や社会的ルールの順守体制を整える(例:内部通報制度の整備)
いずれも企業の安定を守るうえで欠かせない役割ですが、共通しているのは「起きるリスクにどう備えるか・どう対処するか」というスタンスです。
法務が関与するのは経営判断の“後”であることが多く、立ち位置としては後方支援のイメージに近いでしょう。
それに対し、戦略法務は“経営判断の前”に登場し、法務の力で選択肢を広げ、事業を成功に導くことを目指す点が大きな違いです。
新規事業の構想段階や、M&Aの検討段階から関わり、法的な観点からビジネスモデルや交渉戦略を組み立てる。
こうした“攻めの法務”のあり方が、今、多くの企業に求められています。
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戦略法務の仕事内容とは?M&A・新規事業など具体例で紹介
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戦略法務は、企業の将来を左右する意思決定に早期から関与し、法務の知見を活かして事業の前進を支える役割を担います。
ここでは、どのような業務に関与し、どのようなスタンスで社内外と連携しているのかを、実例も交えて紹介します。
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■戦略法務が関与する主な業務領域
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戦略法務は、企業の経営判断や事業戦略に深く関わる立場から、多様な業務に携わります。
ここでは、特に代表的な関与領域として、「新規事業」「知的財産」「M&A」「海外展開」の4つに分けて解説します。
① 新規事業の立ち上げ支援
戦略法務の代表的な領域のひとつが、新規事業への法的支援です。
新しいビジネスを始める際には、以下のようなポイントを事前に精査する必要があります。
・事業内容に違法性がないか
(例:規制業種に該当しないか、公序良俗に反しないか等)
・必要な許認可や届出が揃っているか
(例:飲食業であれば保健所の営業許可、建設業であれば建設業許可など)
・どのようなトラブルが想定されるか
(例:顧客との契約トラブル、他社との競合・知財問題など)
新規事業はスピード感が重視される一方で、初期設計に法的な抜け漏れがあると、途中で事業が止まる、法的責任を問われるなどのリスクにつながります。
戦略法務は、企画段階から関与して適法性やリスクを精査し、「どうすれば事業が実現できるか」を設計段階から提案する役割を担います。
② 知的財産の保護と活用
知的財産の分野も、戦略法務が重要な役割を果たす領域です。
たとえば、以下のような活動に関与します。
・自社の技術やブランドに関する特許・商標などの出願・保護
・他社とのライセンス契約、共同研究開発契約の交渉・ドラフト作成
・保有している知財の価値評価と、ビジネス活用戦略の提案
予防法務の範囲では「守る」ことが中心ですが、戦略法務ではさらに踏み込んで、「この特許をどのように活かすか」「知財をどのビジネスに結びつけるか」という視点から活用戦略を立案します。
つまり、知財を「守る法務」から「武器として使う法務」へと転換していくのが、戦略法務の役割です。
③M&A(企業の合併・買収)への法務支援
M&Aも戦略法務の典型的な業務領域です。買収や提携といった戦略的な経営判断に際して、法務が初期から関与します。
主な業務は以下のとおりです。
・買収スキームの設計(株式譲渡・事業譲渡・合併・第三者割当増資など)
・デューデリジェンスの実施(契約・許認可・知財・労務・訴訟履歴等の調査)
・契約書の作成・交渉(買収契約、秘密保持契約、表明保証条項の整備)
デューデリジェンスは、適正な買収価格の判断材料となるほか、リスクの発見と交渉材料の提供にもつながる極めて重要な作業です。
また、契約締結後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)支援にも法務が関与し、組織再編や内部統制の整備を進めます。
④ 海外展開・クロスボーダー案件の対応
グローバル化が進む中で、戦略法務は海外展開の法的サポートにも不可欠な存在です。関与内容には以下のようなものがあります。
・進出先の法令・規制の調査(現地の会社法、税法、消費者保護法など)
・現地法人の設立手続や運営スキームの設計
・英語や現地語による契約書の作成・レビュー・調整
・トラブル発生時の現地対応と現地法律事務所との連携
海外では、商習慣・制度・言語の違いがあるため、法的な問題だけでなく、文化的背景や実務上の対応力も求められる領域です。
戦略法務は、これら多様な要素をふまえて、グローバルな視点で法務戦略を設計・遂行することが期待されます。
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■著者の実体験にみる戦略法務のリアル
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以前、私が製造業の法務部に在籍していたときのことです。
ある新製品のプロジェクトにおいて、開発の初期段階から法務として関与する機会がありました。
その製品は、生活者の健康や安全に一定の影響を及ぼす特性を持っており、どのような機能設計と位置づけで世に出すかによって、適用される法規制や審査手続きが大きく変わるものでした。
事業部門では、
「どういったカテゴリで販売するのが最適か」
「どの戦略であれば社内外のプロセスを円滑に進められるか」
といった論点が検討されており、私は製品の見せ方・売り出し方の構想そのものに影響を与えるポジションで業務を担いました。
具体的には、以下のような対応を行いました。
・複数の展開パターンに応じた法的な整理と規制要件の比較
・スピード・コスト・審査ハードルを踏まえた現実的なリスク評価
・関連部門との連携と方針調整
・訴求表現や販売チャネルに関する法的アドバイスの提供
このプロジェクトを通して強く実感したのは、戦略法務の本質は「それはできない」と指摘することではなく、「どうすれば実現できるか」「そのために必要な条件は何か」を見極め、道筋を示すことにあるという点です。
単なるリスク管理を超えて、事業の選択肢を広げ、判断の後押しをする。
まさにそれが、戦略法務の担うべき役割なのだと、実務を通じて実感しました。
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■社内における法務の役割
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戦略法務は、事業の構想段階からプロジェクトに関与し、社内のさまざまな部門と連携しながら意思決定を支える存在です。
従来の法務が契約書の確認やリリース直前の“最終チェック役”として登場していたのに対し、戦略法務は「そもそもどんなビジネスにするか」「どうすれば実現できるか」という構想・企画の段階からプロジェクトに加わるのが基本スタンスです。
実際に、戦略法務が関与すべき社内フェーズは、次の4段階に分けて整理できます。
① 構想段階
アイデアや構想が生まれた段階で、法的なハードルの有無や実現可能なルートを検討します。たとえば、規制の有無や許認可の必要性、競合他社との関係などを見極め、「どの方向で進めれば現実的か」を描くのが役割です。
② 企画立案段階
製品やサービスの仕様が具体化するタイミングでは、法令との整合性や、表現・契約スキームなどに関する助言を行い、リスクを最小限に抑えながら価値を最大化できる設計を後押しします。
③ 実行準備段階
契約書の作成・レビュー、社内規程の整備、広告表現の確認、行政手続のサポートなど、事業開始に必要なあらゆる法的実務を担います。部署横断的な調整も重要な役割となります。
④ 実行・運用段階
リリース後の運用状況を見守りつつ、問題発生時の初動対応や体制の改善提案など、継続的に関与します。現場の声を吸い上げ、次の改善やリスク回避に活かす“循環型”の関わり方が求められます。
こうした各フェーズに横断的に関与することで、事業の推進と同時に、法務としての実効性と付加価値も高めることができます。
戦略法務は、単なる“チェック役”ではなく、事業のスタート地点から寄り添い、最適なルートを共に設計する存在なのです。
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■社外との交渉・調整も担う
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戦略法務は、社内にとどまらず社外との交渉や調整にも積極的に関与します。
法務と聞くと「社内で契約書を見ている人」という印象を持たれがちですが、実際には、社外パートナーや関係機関との折衝の場に立ち、ビジネスの前線で交渉をリードする機会も多いのが戦略法務の特徴です。
たとえば、M&Aの場面では、買収先企業の経営陣や顧問弁護士との交渉に臨み、条件のすり合わせや契約内容の調整を行います。
新規事業で外部ベンダーやアライアンスパートナーと提携する場合にも、契約条件の交渉からスキーム構築まで、法務が直接窓口となることがあります。
また、海外展開においては、現地の法律事務所や専門家と連携しながら、現地法令の調査、契約書のローカライズ、行政対応の戦略設計といった業務も担います。
このような場面では、法律知識に加え、ビジネス理解力、交渉力、語学力など、幅広いスキルが求められます。
重要なのは、戦略法務が交渉をリスク最小化のためだけに行うのではなく、事業の目的を理解したうえで、相手の立場も踏まえながら“落としどころ”を見極める視点を持つということです。
「企業を守るために交渉する」のではなく、「企業が前に進むために交渉する」――それが戦略法務の立場です。
交渉の現場では、あらゆる立場の人々と信頼関係を築きながら、現実的かつ納得感のある形で着地させていく力が求められます。
こうした場面でこそ、戦略法務の“攻め”の力が発揮されるのです。以上〈前編〉をお届けしました。「〈後半〉企業法務の「戦略法務」とは?」では、業界ごとに異なる戦略法務の特徴と傾向や、必要なスキルや資格、向いている人の特徴ややりがいなどを解説します。
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戦略法務を目指すならC&Rリーガル・エージェンシー社へ
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戦略法務は、リスクを管理するだけでなく、企業の未来をデザインする法務です。
経営に寄り添い、法的知見で新しい挑戦を支え、事業を前に進めていく――そのダイナミズムにこそ、法務職の醍醐味があります。
C&Rリーガル・エージェンシー社は、法務・知財・弁護士分野に特化した転職支援のプロフェッショナルとして、企業の実情に精通した専任エージェントが在籍。
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